2010年09月13日
夜にすれ違った顔の無い男
昔、単身赴任をしていた頃の話。
健康のために、というよりはストレス解消のために、近所を夜歩き回っていた。夜歩くのは、なんだか不思議な鎮静効果があって、いくらでも歩いていける気持ちになる。
あれはちょうど単身赴任が始まった頃。毎日緊張はかなりしていて、でも仕事がそんなに忙しくなくて、という時期だった。夜を歩いているうちに、当時の家からちょっと歩いたところに、真っすぐな散歩道を見つけた。おそらく昼間には人がそれなりに行き交い、にぎわうのだと思うけど、長い川沿いがずっと板張りの遊歩道になっていて、ところどころ公園めいたベンチや大きな時計などが配置されていた。上流から下流まで歩くと小一時間かかる、ちょうどいい散歩道だった。
いつものように眠れなかった日、朝3時か4時のまだ暗いころだ。家を抜け出して、いつもの散歩道まで歩いた。川沿いに出たら、軽くランニングしたり歩いたりしながら、とにかく自分のペースを狂わせないようにだけ気を使いながら川沿いを行く。
すると、遠く向こうから、私よりちょっと背の高い男が、ゆっくりと川沿いを歩いてくる。ちょっと猫背で歩いている姿がうす気味悪くて、注視できないでいた。だんだん男は近づいてくる。
そして、これはどう考えても目の錯覚なのだけれど。すれ違うとき、目の隅で顔をみたら、男の顔の周辺がグレイにそこだけ光があたっていない空洞のように見えた。「きっと、目を向けてきちんと見たら目の錯覚で、なんでもないんだ、普通の人なんだ」と思って目を向けようとしたのだけれど、なんだかぞっとして、しばらく目を向けられなかった。すれちがってずいぶん経って、勇気を奮って振り返ったら、遠くにその男が歩き去るのが見えた。
夢でも怪談でもなく、何かの比喩でもなくて、本当に体験した、すごく不思議な想い出を書いてみた。なので、この話の続きは特にない。そのあとそんなに怖い思いもしなかったし、だんだん夜よく眠れるようになって、その道を走るのは、朝7時とかの普通の早朝になっていった。
さて、実は、今日そのことを思い出しながら自転車で帰っている途中のこと。
「ウ~~~」という、不完全燃焼のサイレンのような、初めて聞くような異様に大きな音をきいてビクっとした。何か、自分が思い出していることとシンクロしているような気がして。
実を言えば、(というか考えるまでもなく)出動するまえの消防車がサイレンを低く鳴らしていただけなのだけど、あの夜にすれちがった男のことを考えていたので、なんだかあの音をきっかけにどこかに連れて行かれそうな気がしてしまったのだ。
あの男の顔が灰色にくぼんで見えたのは、たぶんいろんな偶然が重なった目の錯覚かもしれないのだけれど、それでも、そういうふうに見えてしまうぐらい、特別な心の状態にいたんだな、と思う。
健康のために、というよりはストレス解消のために、近所を夜歩き回っていた。夜歩くのは、なんだか不思議な鎮静効果があって、いくらでも歩いていける気持ちになる。
あれはちょうど単身赴任が始まった頃。毎日緊張はかなりしていて、でも仕事がそんなに忙しくなくて、という時期だった。夜を歩いているうちに、当時の家からちょっと歩いたところに、真っすぐな散歩道を見つけた。おそらく昼間には人がそれなりに行き交い、にぎわうのだと思うけど、長い川沿いがずっと板張りの遊歩道になっていて、ところどころ公園めいたベンチや大きな時計などが配置されていた。上流から下流まで歩くと小一時間かかる、ちょうどいい散歩道だった。
いつものように眠れなかった日、朝3時か4時のまだ暗いころだ。家を抜け出して、いつもの散歩道まで歩いた。川沿いに出たら、軽くランニングしたり歩いたりしながら、とにかく自分のペースを狂わせないようにだけ気を使いながら川沿いを行く。
すると、遠く向こうから、私よりちょっと背の高い男が、ゆっくりと川沿いを歩いてくる。ちょっと猫背で歩いている姿がうす気味悪くて、注視できないでいた。だんだん男は近づいてくる。
そして、これはどう考えても目の錯覚なのだけれど。すれ違うとき、目の隅で顔をみたら、男の顔の周辺がグレイにそこだけ光があたっていない空洞のように見えた。「きっと、目を向けてきちんと見たら目の錯覚で、なんでもないんだ、普通の人なんだ」と思って目を向けようとしたのだけれど、なんだかぞっとして、しばらく目を向けられなかった。すれちがってずいぶん経って、勇気を奮って振り返ったら、遠くにその男が歩き去るのが見えた。
夢でも怪談でもなく、何かの比喩でもなくて、本当に体験した、すごく不思議な想い出を書いてみた。なので、この話の続きは特にない。そのあとそんなに怖い思いもしなかったし、だんだん夜よく眠れるようになって、その道を走るのは、朝7時とかの普通の早朝になっていった。
さて、実は、今日そのことを思い出しながら自転車で帰っている途中のこと。
「ウ~~~」という、不完全燃焼のサイレンのような、初めて聞くような異様に大きな音をきいてビクっとした。何か、自分が思い出していることとシンクロしているような気がして。
実を言えば、(というか考えるまでもなく)出動するまえの消防車がサイレンを低く鳴らしていただけなのだけど、あの夜にすれちがった男のことを考えていたので、なんだかあの音をきっかけにどこかに連れて行かれそうな気がしてしまったのだ。
あの男の顔が灰色にくぼんで見えたのは、たぶんいろんな偶然が重なった目の錯覚かもしれないのだけれど、それでも、そういうふうに見えてしまうぐらい、特別な心の状態にいたんだな、と思う。
Posted by しぞーか式。 at 23:46│Comments(3)
│しぞーかの外で思う
この記事へのコメント
なんてことを書いて、真っ暗なダイニングに行ったら、何かが暗闇で蠢いてマジびっくり、と思ったら殿(高1女子、殿だけど女子)だった。
うたた寝してて、さっき起きたんだそうだ。
もう、心臓に悪いので今日はびっくりさせないで欲しいなあ(笑)。
うたた寝してて、さっき起きたんだそうだ。
もう、心臓に悪いので今日はびっくりさせないで欲しいなあ(笑)。
Posted by しぞーか式。 at 2010年09月14日 00:49
こんばんわ。
深夜の街中って別世界のようですね。
百鬼夜行・・・
深夜の街中って別世界のようですね。
百鬼夜行・・・
Posted by koba at 2010年09月14日 21:14
今、「あのときは、私も怖い顔してたのかな」、とふと思いました。
ビビってたのは向こうだったりして。
ビビってたのは向こうだったりして。
Posted by しぞーか式。 at 2010年09月15日 22:37